#6までで2級の知識をひと通りさらった。今回は2級の受験に挑むのと並行して、覚えたモデリングを「道具づくり」に使ってみる回だ。題材は、装置やラインの立ち上げで必ず出てくる位置決め治具(ワークを毎回同じ位置で固定する板)。前半を自分の手で作り、繰り返しの穴あけと面取りはClaude Code(Fusion 360 MCP接続)に任せた。
結論から書くと、今回いちばんの学びは「寸法駆動」の落とし穴だった。AIに座標で穴を置かせたら、板の寸法を変えた瞬間に穴が意図しない位置へ取り残された。手で「端から10mm」と拘束した穴は追従したのに、だ。なぜ一度は手で通す意味があるのか ― それが数字ではっきり出た回だった。
今回のゴール
位置決め治具を、ベース板・ピン穴・ねじ穴・面取りの要素に分解して作る。前半は手で意味を通し、後半は同じものをAIに一括生成させる。最後に、客先やSIerに渡す本命形式のSTEPで書き出すところまで持っていく。営業で20年、客先から「ワークを毎回同じ位置で固定したい」という要望は何度も受けてきた。その一言を、基準面・ロケートピン・クランプという形に自分で返せる側に回るのが到達点だ。
手作業フェーズ: 治具の「意味」を手で通す
まず120×80×10mmのベース板を作る。原点に長方形を描き、横120・縦80を寸法で与えて、10mm押し出すだけ。ここまでは#2〜#4の総復習だ。ただ、簡単なはずのスケッチで、初心者らしく素直に転んだ。
つまずき① 長方形の一辺を、うっかり消してしまった
寸法を入れる途中で、左の縦線を1本選んで削除してしまった。長方形が「コの字」に開いて、内側の塗り(閉じたプロファイル)が消える。立体化のもとになる閉じた輪郭が崩れると、押し出しはできない。直し方は2つで、消した直後ならCtrl+Zで一発、進んでしまっていたら線(L)で原点から角へ引き直して閉じる。慌てて新しい辺を足すより、まず取り消しを試すのが速い、と体で覚えた。
つまずき② 寸法が縦横で混ざって、形が読めなくなった
引き直すうちに、同じ辺に120・100・50と複数の寸法が重なって、どれが効いているのか分からなくなった。こうなったら粘らず、スケッチの中身を全部消して描き直すのがいちばん速い。中心の長方形で原点から120×80を引けば、寸法は2つだけ・完全拘束のきれいな状態に戻る。「汚れたら描き直す」は失敗ではなく、CADでは普通の判断だ。
つまずき③ 穴の中心点が、1個余分に残っていた
ピン穴は、上面に点を2つ置いて寸法で位置決め→穴コマンドでφ8貫通という順で作る。狙いは端から10mm・下から40mmの2点。ところが操作中に点が3個に増えていた。穴は2つなので、点も2つでなければならない。余分な点はクリックしてDeleteで消す。点は穴の中心の目印で、穴コマンドで選んだ分だけ穴になる ― だから「点の数=穴の数」を最後に数える癖をつけると事故が減る。穴の位置は座標の数字でなく板の辺からの距離(端から10mm)で与えた。これが後で効いてくる。

同じ治具を、Claude Codeに自動で作らせるプロンプト
ベース板とピン穴で「治具とは何か」を手で通したら、残りのM6下穴4つと外周の面取りは反復作業だ。ここをClaude Code(Fusion 360 MCP接続)に一括で作らせる。実際、この記事の完成カットはこのプロンプトでClaudeが今開いている部品に直接フィーチャーを足して生成した。
いま開いている部品(120×80×10mmのベース板・原点は角)に、位置決め治具の穴と面取りを足してください。条件: 1. 単位はmm(Fusion APIの内部単位はcmなので換算する)。 2. M6下穴(φ5.0)を4つ。位置は「板の各辺からの距離」で拘束する ― 端から10mmずつ、四隅に。座標の数値で固定せず、エッジ基準にすること(後で板の寸法を変えても穴が追従するように)。 3. 穴は板を貫通させる(下方向に全貫通)。 4. 外周の縦エッジ4本に2mmの面取りを付ける。 5. 完成後、等角ビューでPNGを書き出す。
注目してほしいのは、条件2の「座標で固定せず、エッジ基準にする」という一文だ。これは最初からこう書けたわけではない。私が一度AIに座標で穴を置かせて、見事に失敗したから書けた条件だった。その失敗が、次の章の主役だ。
今回の学び ― 「寸法駆動」は、基準を渡さないと崩れる
治具ができたところで、お題の実験をやった。ベース板の長さを120mmから150mmに変えて再計算し、穴がどう動くかを見る。設計の世界で寸法駆動(パラメトリック)と呼ぶ、「寸法を変えれば形が自動で追従する」性質の確認だ。


結果は数字で出た。手で「端から10mm」と拘束したピン穴は、板を伸ばしても右端から10mmを保って追従した。ところが、最初にAIへ座標で置かせたM6穴は、右端から10mm→40mmへ取り残された。穴そのものは動かず、板だけが伸びたからだ。これが寸法駆動の落とし穴で、穴の位置を「数値の座標」で持つか「辺からの距離」で持つかで、後の修正のしやすさが正反対になる。
ここが連載の核だ。面倒な反復はAIに任せ、意味(=どの基準で測るか)を決めるのは人。AIは「四隅に穴」と言えば作ってくれるが、「何を基準に四隅か」を渡さなければ、変更に弱いモデルになる。だから一度は手で通す ― つまずいた箇所こそ、AIに外させてはいけない条件になる。座標で失敗したからこそ、プロンプトに「エッジ基準で」と書けた。
仕上げに、治具をSTEPで書き出した。#6で学んだとおり、STEPはソリッド(形状・寸法)を正確に保って渡せる本命形式で、客先やSIerへの受け渡しはこれだ。STLは三角メッシュで寸法が落ちる造形用。「治具のデータ、STEPで送ります」と即答できる ― 営業20年の製品知識に、ようやく”形にする手”が一本つながった実感がある。
次回の予告
Phase1(基礎+2級)の総まとめに入る。#1の環境構築から今回の治具まで、手で覚えたこととClaude×MCP合作で効率化したことを一枚に整理し、次のPhase2(準1級/1級の実技+MCP拡張=架台フレーム生成やロボ可動域チェック)への橋渡しにする。「人が意味を握り、反復はAIに渡す」をどこまで装置設計に伸ばせるかを考える回にしたい。
復習ボックス ― #7 位置決め治具づくり + 寸法駆動
手順サマリ
- 原点に中心の長方形120×80を描き、10mm押し出してベース板にする
- 上面に点を2つ置き、端から10mm・下から40mmで寸法拘束 → 穴コマンドでφ8貫通(ピン穴)
- M6下穴φ5を四隅に。位置は「辺からの距離(端から10mm)」で拘束 → 貫通
- 外周の縦エッジ4本に2mm面取り
- ベース長を変えて再計算し、穴が追従するか(寸法駆動)を確認
- STEPで書き出す(客先・SIer受け渡し用)
つまずき早見表
| 症状 | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 長方形が開いて内側の塗りが消える | 辺を1本消してプロファイルが閉じない | Ctrl+Zで戻す。進んでいたら線(L)で原点から角へ引き直す |
| 同じ辺に寸法が重なって読めない | 引き直しで寸法が増えすぎた | 中身を全消し→中心の長方形で描き直す(寸法2つに) |
| 穴の数が合わない | 中心点が余分に残っている | 「点の数=穴の数」を数え、余分な点をDeleteで消す |
| 板を伸ばすと穴が取り残される | 穴の位置を座標で固定した | 位置は辺・原点からの距離で拘束する(寸法駆動が効く) |
寸法・設定値(再現用)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| ベース板 | 120 × 80 × 厚10mm |
| ピン穴 | φ8・端から10mm・下から40mm・2つ(中心間100mm) |
| M6下穴 | φ5.0・四隅・各辺から10mm・貫通 |
| 面取り | 外周の縦エッジ4本・2mm |
ショートカット・操作: スケッチ寸法はD / 線はL / 押し出しはE / 穴は「ソリッド→作成→穴」 / 面取りは「修正→面取り」 / 取り消しはCtrl+Z
用語ミニ辞典
- 位置決め治具: ワークを毎回同じ位置・姿勢で固定する板。基準面+ロケートピン+クランプが基本要素
- 下穴: ねじを切る前にあける穴。M6のタップ用は約φ5.0
- 寸法駆動(パラメトリック): 寸法を変えると形が自動で追従する性質。基準からの拘束が前提
- エッジ基準の拘束: 穴などの位置を座標でなく辺・原点からの距離で持たせること。変更に強い
- STEP / STL: ソリッドを正確に保つ交換形式 / 三角メッシュで近似する造形用形式
検定タグ: 3次元CAD利用技術者試験 2級 ― スケッチ・フィーチャー操作・データ交換形式の各領域に対応(今回は受験回)。


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